60周年特別インタビュー第3回:人を育て、日本一の市役所に (宮崎県都城市市長 池田宜永)

近年、ふるさと納税の寄附金額が全国トップとなったことで、飛躍的に知名度がアップした宮崎県・都城市。池田宜永市長の就任以来、市役所では明るいあいさつ、親切な応対を心がけ、市民サービスの向上にも力を入れてきました。

池田市長の強いリーダーシップのもと、「日本一の市役所」を目指す職員の行動指針となっているのが、みんなで作り上げた「都城フィロソフィ」です。池田市長に、その内容と込められた思いなどをお聞きしました。

 

組織の成長は「人」づくりから

 

「都城フィロソフィ(哲学)」が生まれたのは、市長に就任して2年目、雑誌で読んだ京セラの創業者・稲盛和夫さんの考え方に深く共感したことがきっかけです。それから、稲盛さんの本を読み漁り、ついには「盛和塾」に入り、稲盛さんの経営哲学を学びました。民間企業をどうやって成長させるか、社員をどう幸せにするか、人としてどうあるべきか……。私がふだん感じたり、考えていたことの答えが見つかったような気がしました。そして、その経営哲学を自治体にも導入できないかと考えたのです。

私は、最後は結局「人」だと思っています。人が成長しないと組織は成長しないし、良い政策は生まれない。市役所は「市民サービス産業」だと考えていますので、職員が成長すれば良い政策が生まれ、市民の幸福、市の発展につながります。しかし、良い政策が生まれても「人」がちゃんとしていないと、きちんとした結果を出せません。

仕事は、漠然とするのか、明確な方針をもってするのかで結果が変わってきます。そこで、私の思いを形にすることで、皆が同じ考えを持ちやすくなるのではないかと思い、平成29(2017)年から「都城フィロソフィ」の作成に着手しました。

 

まずは、稲盛さんから薫陶を受けた方にお越しいただき、全職員に「京セラフィロソフィ」について講演をしていただきました。職員によって受け取り方は千差万別でしたが、前向きな職員20名を選んで「フィロソフィ検討委員会」をつくり、2年かけてどんな内容にするか検討を重ねました。もともとは私の発案ですが、内容は「職員がつくった」ものでなくては意味がありません。自分たちで作り上げたからこそ、責任感が生まれました。

平成31(2019)年4月、「都城フィロソフィ」を策定し、手帳にして配布しました。今は全職員のほか、教員や市議会議員も持ってくださっています。この手帳はまさに私の思いが集約された‟一生もの”。自治体だけでなく、会社に置き換えてもらっても違和感のない内容です。

 

 

 

 

 

 

☆「都城フィロソフィ」は、都城市のホームページで公開されています。

 

「市長、またか」と思われたら勝ち

 

フィロソフィにもありますが、「あいさつはすべての基本」です。職員には、「いくら仕事ができても、あいさつができなければダメ」と、この10年間ずっと言い続けています。

私は大学を出た後、東大の大学院に行きました。東大生は優秀な子は多いのですが、「人間力」をあまり感じられない子もいました。「小さな親切」運動のきっかけとなった茅誠司(ルビ:かやせいじ)東大総長の卒業告辞の中にも、「身につけた教養を、頭の中に百科事典のように抱えていてはいけない。その教養を社会の中にどう生かすかが大切」と、東大生に「小さな親切」の実践を呼びかけていますよね。その通りだと、非常に共感しました。

「東大」という看板は大きいですが、その看板だけで学生たちが社会に出たら、日本はどうなるのか。学力だけではなく、子どもたちの「人間力」を育てないと社会に大きな損失が生まれるのではないか、と思いました。

私のマニュフェストの3つの柱の一つに、「人間力溢れる子どもたちの育成」があります。私が最後は「人」という、その人間力の根っこというか、象徴が「あいさつ」。あいさつ一つで空気が変わり、その場が明るくなったように感じます。「気」は人の心に影響しますので、とても大切にしています。

毎年、年度初めや新人職員に話をするときには、あいさつのことしか言いません。職員には「当たり前のことを今さら」と言われることもありますが、私は「またか」と思われたら勝ちだと思っています。またかと思うということは、頭の中に私の言葉が少し残っている、浸透してきているということ。だから、「市長、また言っている」と思われるまで、言い続けようと思っています(笑)。

 

日本一の「肉と焼酎」で都城をピーアール

 

以前、会議があって東京に行ったときに、受付で「宮崎県都城市」と記入したら、「みやぎとじょう市」と間違えて呼ばれたことがありました。東京の方にとっては、宮城県の方が身近だし、「都城」は知らないと読めないんですよね。でもその時、「このままでいいのか」と考え、都城のピーアールに「ふるさと納税」の制度を使おうと思いついたのです。

まず、一番メッセージ性のある「日本一」のものを探しました。都城市は牛豚鶏肉の総産出額が日本一。それに、焼酎売上高日本一の「霧島酒造」の本社があります。「肉と焼酎」、この二つは相性もいいし、返礼品としてまとめて売り出せないかと考えました。でも、職員からは、「肉と焼酎に特化したら、ほかの業界から不満が出る」と、総スカンをくらいました(笑)。

しかし、いいものをたくさん並べてもメッセージ性は弱まるだけ。都城市のことをまったく知らない人にピーアールするには、いいものを10個見せるより、一つに絞った方が良いと考えたのです。職員には、ほかの業界に文句を言われたら「市長のせいにしていいから」と説得しました(笑)。結果、それまで年間2~300万ほどだったふるさと納税額が、半年で約5億。次の年には42億に。昨年度は、146億と増えていきました。

私はアイデアを出して‟いける”と思ったら、あとはがむしゃらにやるだけ。職員にも、「結果にこだわりなさい」と伝えています。役所は民間企業と違って、結果を出さなくてもつぶれませんので、残念ながら結果にこだわらない文化がありますが、それでは市民に損失が生まれてしまいます。だからこそ、結果を出す必要があるのです。

「予算がないからできない」というのも、言い訳にありがちですが、「予算を気にしないでやっていいよ」と言うと、だいたいフリーズしますね(笑)。そこで、本気でやりたいかどうかが分かります。予算を気にして発想が小さくなることのないよう、それを一度取り払ってあげることも、時には必要かなと思います。

これからも、「都城フィロソフィ」に記された「当たり前のこと」を疎かにせず、成功体験によってモチベーション高く仕事に取り組むことができれば、市民のための市役所になると信じています。

 

心を育てる運動を失くしてはならない

 

「小さな親切」運動は「人」の根幹をつくる活動。ずっと続いてほしいです。環境は激変していますが、人の本質は変わっていないと私は思います。例えば、孔子の『論語』は今でも人の心を打ちます。また、今も戦争は無くならない。戦争は、感情でやるものだからです。人は感情、心で動いているので、そこが歪むと、世の中が歪んでしまいます。だから、心を育てる運動を失くしてはならない。

まさに、「継続は力なり」。私も「またか」と思われるまで言い続けますから、ぜひ今後も活動を続けていってください。

 

池田市長は都城支部の顧問として、支部主催の「定例会」「クリーン大作戦」などに熱心に参加。大重都志春支部代表(右)、中山雅和副代表(左)とともに。

 

 

 

 

 

 

 

【プロフィール】

池田宜永(いけだ・たかひさ) 

1971年4月7日生。宮崎県都城市出身。九州大学経済学部卒業。1994年、大蔵省入省。1999年、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。主税局調査課内国調査係長。2010年、財務省主計局主査(農林水産係)。2007年、宮崎県都城市の副市長に就任。2012年、都城市長に就任。現在3期目。

 

 

 

 

 


 

☆都城はどんなところ?

  • 宮崎と鹿児島をつなぐ土地

都城市の人口は、宮崎県では宮崎市に次いで2番目に多い約16万人。室町時代から幕末まで、薩摩藩島津家の分家である都城島津家が治めていたことから、歴史・文化、方言は鹿児島に近く、車で5分ほど走ると鹿児島県。基幹産業は農業・畜産業。市のPRキャラクターは、都城市が盆地にあることから「ぼんちくん」。

 

  • マイナンバーの普及率は全国一位

市民からの「申請手続きが面倒」との声を受け、タブレットを使い写真を撮影し、2回ほどボタンを押せば申請完了となる独自のシステムを開発。また、市役所に来なくても申請ができるよう、職員が出張して手続きを行うなど地道な取り組みを続けた結果、現在市民の約85%がマイナンバーを取得し、普及率が全国の市区で一位となっている。

 

  • 子育て世代に優しい施設づくり

中心市街地中核施設「Mall mall(まるまる)」は、閉店した地元百貨店をリノベーションした市立図書館や子育て支援施設、商業施設、カフェなどが集まった複合施設。この施設を建てるにあたり、池田市長の要望は「集客力のある女性をターゲットにすること」「子供連れが傘をささずに移動できるよう、すべての施設を屋根でつなぐこと」の二つのみ。もともと百貨店だったこともあり、既存の図書館にはないゆとりの空間が広がり、月に約10万人が利用する人気施設となっている。

 

<Mallmallでしんせつ発見!>

自分の荷物や本をいれて移動できるバッグを貸し出し。
都城にまつわる言葉のスタンプ。コードを読み込めば関連本を検索することができる。オリジナルのノートづくりに。
たくさん本を借りても安心。館内用のカート設置。