穏やかでやさしい空気に包まれて
全国から300名が集まった全国表彰式
平成28年11月26日(土)、霞が関ビル35階にある東海大学校友会館にて、本年度の「小さな親切」運動全国表彰式が開催されました。その様子をご報告いたします。
平成28年度「小さな親切」運動全国表彰式
日 時:平成28年11月26日(土) 12:30~15:30
会 場:霞が関ビル35階 東海大学校友会館 阿蘇の間
主 催:公益社団法人「小さな親切」運動本部
後 援:内閣府・文部科学省・NHK
ヴィオラとピアノの生演奏が、参加者をあたたかく迎えました
すっきりとした好天に恵まれた平成28年度「小さな親切」運動全国表彰式。その会場に流れたのは、沖田孝司、千春ご夫妻によるヴィオラとピアノのウェルカム演奏です。ドイツ・ドルトムント市立フィルハーモニーオーケストラに5年間在籍され、帰国後、国内で活動を続けられているご主人の孝司さんは、「この運動は本当に大切ですし、全国の皆様と会えてうれしく思っています。今日は心を込めて演奏します」と語り、四季をテーマにした楽曲を30分近く演奏してくださいました。
ご来場者の一人は、「ものすごく緊張していたのですが、こんなすてきな音楽を聞かせていただいて、リラックスできました」と語っていました。
そんな和やかな雰囲気の中、式典が始まります。運動本部の鈴木恒夫代表が、「今年は『小さな親切』実行章の受章者が575万人に達しました」と今年度の成果報告などを交えながら、あいさつを行ったあと、ご来賓として内閣府大臣官房総務課 上村秀紀管理室長からの祝辞を賜り、祝電を披露しました。
最初の表彰は内閣官房長官賞。永年にわたってこの運動に尽力を頂いた方を表彰しているものですが、この度もまた「小さな親切」の鑑と言えるような5名が表彰されました。
次の表彰は、新たに設けられた「Best Kindness Award」です。最高賞と言ってもいいものですが、受賞した「小さな親切」運動静岡県本部は、まさにそれに相応しい活動を続けられています。県内の結束力が本当に強いのです。
県代表の後藤正博さんは、今回の受賞について次のように語っています。
「ちょうど20年になるのですが、企業や行政やいろいろな人々が理解をしてくださり、どんどんさまざまな活動が加わっていきました。人と人の輪が広がる素晴らしい運動に関わらせていただいているなというのが実感で、県本部が代表していただいた賞です」。後藤県代表は運動の立ち上げ時から関わられたそうですから、喜びもひとしおとお見受けしました。
運動大賞を受賞した京葉ガスの羽生 弘会長は、「この運動をしていますと、小さなことにも気配りができるようになって、親切な行動がとれるようになりますね。社員教育や企業経営に資する面も大きいのです」と語ってくれました。京葉ガスは会社と組合がいっしょになって運動をされている点が特長でもあり、強みにもされているようです。
特別なことではない、でもそれが「小さな親切」らしさです。
式典は運動大賞、「小さな親切」実行章の受賞、あいさつ運動大賞へと移っていきます。
575万人目の「実行章」の受章者、藤倉亮君は、お母さまといっしょの参加でした。壇上で質問を受けた藤倉君は、「緊張してうまくしゃべれなかった」とちょっと悔しそうでしたが、お母さまは、「いつも友達と仲良くするように言っていますので、この賞は励みになる」と話していました。
あいさつ運動大賞を受賞したのは佐賀県・佐賀市立嘉瀬小学校です。うまくあいさつができない子どもたちをその気にさせるため、ハイタッチをしながら、あいさつ運動を展開して効果をあげている、というアイデアが受賞のポイントでした。その効果や実行方法について、同校の永野篤子校長先生と丸田ちひろさん(小6)、池田美葵(ひなた)さん(小5)が、スライドショーを使って説明してくれました。大人顔向けの上手なプレゼンで、この日のためにたくさん練習も重ねたのだと感じます。
式典の後半は、はがきキャンペーンと作文コンクールの入賞者の表彰です。
はがきキャンペーンで大賞の日本郵便賞をとった郡司志保さんの作品は、スーパーのレジ前というごく日常的なシーンを題材にしています。郡司さんは、「特別なことではなかったのに、このような賞を頂いてびっくりしています」と話していましたが、司会者が作品を披露すると、場内からは納得の拍手がわきおこりました。高齢化社会到来した日本に求められる「小さな親切」を象徴するような作品だったと思います。
また、「小さな親切」運動本部賞を受賞した高垂蓮(こう・すよん)さんは、「日本の母」とご本人が慕っておられる方といっしょに表彰式に来てくださいました。とても仲の良いお二人で、市民レベルの国際交流の良さを見たような気がします。また受賞を韓国の家族に話すと、「え、あなたそれ日本語で書いたの?」と驚かれたそうです。
作文コンクールの表彰は小学生も多いのですが、今回はまったく混乱することなく進行しました。事前に配布した式典の資料をよく理解されていたのだと思います。受賞者の何人かに話を聞きましたが、「親切」への関心がとても高いことに驚かされました。また受賞者本人よりも、親御さんたちが嬉しそうで、「自慢の息子です」と目を細めているお父さんもいらっしゃいました。
この後、休憩をはさみ、再び沖田夫妻によるハートフル・コンサートが行われました。軽妙なトークを交えながらの演奏に、あるお父さんは、「バイオリンよりヴィオラの方が安らぎますね」と言っていましたが、今年の表彰式を象徴するような穏やかでやさしい空気に包まれたひと時でした。
今年の入賞作品紹介!
今年の作文コンクールにはいくつかの特長がありました。ひとつは海外からの応募を含め、外国の方との交流に関する作文が増えたこと。また、例年になく中学生のがんばりも目立ちました。そして、親切を受けたあと、今度は自分が誰かに親切にしたというようなリアクションまで言及している作品が多く寄せられました。もとより「小さな親切」運動は、そうした親切の輪の広がりを意図したものですので、嬉しい傾向にあると感じます。
さらに、エッセイコンテスト~はがきキャンペーン~では、20~80代の各層から偏りのない応募がありました。それだけに作風や視点が実に多彩。「親切」の範疇を広げてくれたような印象です。
【日本郵便賞】
ゆっくりで大丈夫 郡司 志保
小雨の降る夜のことでした。仕事帰りに立ち寄った駅前のスーパーで、食材をかごに入れ、レジに向かうと、私の前にはおばあちゃんが一人で並んでいました。首を悪くしているのか、あまり上を向くことができず会計をするのにかなりの時間がかかっていました。
私はふと自分の祖母を思い出しました。実家に帰るたび祖母の財布が小銭でいっぱいになっていることに気づき、理由を聞いたところ「お金を早く出さないと、レジで並んでいる後ろの人に迷惑がかかるから、いつもお札で買い物をしている」とのことでした。そのことを思い出し、気がつくと「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけていました。それを見ていたレジ係の女性や私の後ろに並んでいたサラリーマンも口を揃えて「ゆっくりで大丈夫」と優しくほほ笑みました。
会計が終わり袋詰めをしていると「さっきはありがとう。いつも周りの方に迷惑がかからないよう遅い時間に買い物をしているのだけど、今日は都合がつかなくて。本当にありがとうございました」と、先ほどのおばあちゃんが来てくれました。私はそれを聞いて、この社会がもっと高齢者や子供に優しくなれば良いなと思いました。そのために、小さなことでも自分の出来る事をこれからも続けていきたいと思います。
【内閣総理大臣賞】
勇気のスイッチ
東京都 東京学芸大学附属世田谷小学校 6年 立見 理彩子
今日の荷物は、いつもに比べて格段に重い。学校からバイオリンを持って帰らなければいけないからだ。大粒の雨が私のかさをたたき、荷物はすでにぬれてしまっている。
もう20分近く待っただろうか。ようやくバスが来た。バスは空いていて、私は一人席に座った。今までずっと荷物を持っていたせいか、手がびりびりする。私はしびれた指を開いたり閉じたりした。そして痛みがなくなったあと、タオルで荷物をふき、本を開いた。
少し先のバス停でドアが開いた。誰かが乗ろうとしている。ふと顔を上げてみると、車いすに乗った女の人だった。私が座っている席は、車いすの固定席のため、よけなければいけない。急いで荷物を持って席を立った。
「ありがとうございます。」
と女の人が言った。私は笑顔を浮かべて、
「どういたしまして。」
と答えた。笑顔とは裏腹に、時間がたつにつれて、再び手がしびれてきた。
「荷物を持ちますよ。」
後ろから聞きなれない発音の声が聞こえた。声がした方を振り向くと、外国人の女の人が青い目をこちらに向けてほほえんでいる。
「いいえ、とても重いので大丈夫です。」
と私が遠りょすると、
「持ちますよ。」
ともう一度、よりほほえみながら言った。そこまで言ってくれたのだからと思った私は、お礼を言い、バイオリンを持ってもらうことにした。なんてやさしい人だろう。その人は、少しもいやそうな様子を見せずに、ずっとバイオリンを持ち続けてくれた。
私が降りるバス停が近づいてきた。私はお礼を言おうと思ったが、日本語で「ありがとう」と言うべきか、英語で「サンキュー」と言うべきか迷った。いっそのこと、その人が降りるバス停までいっしょに乗っていってしまおうかと思ったくらいきん張した。
すると、その人は私の内心を悟ったのか、
「降りますか。」
と聞いてくれた。その言葉がどれだけ私を安心させてくれたことだろう。私は、
「はい。ありがとうございました。」
と言い、バイオリンを受け取った。そして、親しみのこもった笑顔を浮かべた女の人と別れ、バスを降りた。
今まで私は、お年寄りの人など日本人には親切にしてきたつもりだが、外国の人にはしたことがない。日本語が通じないと思い、話しかけようとしなかった。
しかし、今回のできごとで、私は、あの女の人の笑顔を思い出して勇気を出せば、外国の人にだって親切にすることができるような気がした。あの女の人の笑顔は、私にとって勇気のスイッチだ。これからは困っている外国の人に会ったら、勇気のスイッチを入れて、声をかけようと思う。