熊本県 熊本大学教育学部附属中学校 1年 樋口 頌子
私は今年4月、熊本に引っ越してきて初めて知った言葉があります。それは「あとぜき」という言葉で、お店や図書館などいろいろな施設のドアに「あとぜき」と書いた紙が貼ってあるのです。
私はその張り紙の意味がわからず、家に帰ってインターネットで「あとぜき」を調べてみました。
「あとぜき」は熊本の方言で、「扉を開けたら必ず閉めましょう」という意味でした。今までも扉を開ければ閉めるのが当然のこととあまり気にもかけず暮らしてきましたが、(熊本ではしっかり扉を閉めることが大事なんだな。)と考え、早く熊本になじむためにも、扉をちゃんと閉めるよう改めて心がけました。
「あとぜき」の意味を知ってから、外出時、ドアの前で熊本の皆さんがちゃんと「あとぜき」しているのか気になり、よく見てみると、やはりたくさんの人が自分で開けた扉はきちんと最後閉めるところまで見届けていることがわかりました。
そして、もうひとつ気づいたことがあります。それは、多くの人が開けた扉を閉めるときには必ずふり返り、後ろに人がいないか確認していることです。後ろに人がいるときにはその人が通るまで扉を押さえて待ってくれています。
お年寄りやベビーカーを押したお母さんたちにはもちろん、私もなんども前の人が扉を押さえて通してもらったことがあります。休日の混雑したデパートなどに行くと、後ろに何人もの人が続くことがあります。そんなときにも扉を開けた人が後ろの人が途切れるまで扉を押さえて待っていました。
きっと「あとぜき」という短い言葉の中には、「扉をきちんと閉める」という意味だけでなく、後ろを歩く人への気づかいや心くばりも含まれているのだと気づき、私は「あとぜき」がとてもやさしくて温かい言葉に思えてきました。
そして、熊本に来てからの数カ月の間、道に迷う私たちにやさしく道を教えてもらったこと、電車の中で小さな妹に席を譲ってもらったこと、電車での忘れ物がちゃんと手元に戻ってきたこと……、たくさんの親切に触れてきたことが思い出されました。
今回「あとぜき」の意味を考えることで、私は改めて熊本の皆さんのやさしさを知りました。私はさらにまた熊本が好きになりました。「あとぜき」という言葉は日本中の人に知ってほしいすてきな言葉です。
私も早く、「あとぜき」をスマートにできるようになりたいです。
そして、いつもなにげなくしているあたりまえの行動が、いつのまにか「誰かへの親切」となっているようになればいいな、と思いました。