「小さな親切」作文コンクール 入賞作品
〈第44回(令和元年)・入選〉

「『あとぜき』のやさしさ」

熊本県 熊本大学教育学部附属中学校 1年 樋口 頌子

 

私は今年4月、熊本に引っ越してきて初めて知った言葉があります。それは「あとぜき」という言葉で、お店や図書館などいろいろな施設のドアに「あとぜき」と書いた紙が貼ってあるのです。

私はその張り紙の意味がわからず、家に帰ってインターネットで「あとぜき」を調べてみました。

「あとぜき」は熊本の方言で、「扉を開けたら必ず閉めましょう」という意味でした。今までも扉を開ければ閉めるのが当然のこととあまり気にもかけず暮らしてきましたが、(熊本ではしっかり扉を閉めることが大事なんだな。)と考え、早く熊本になじむためにも、扉をちゃんと閉めるよう改めて心がけました。

「あとぜき」の意味を知ってから、外出時、ドアの前で熊本の皆さんがちゃんと「あとぜき」しているのか気になり、よく見てみると、やはりたくさんの人が自分で開けた扉はきちんと最後閉めるところまで見届けていることがわかりました。

そして、もうひとつ気づいたことがあります。それは、多くの人が開けた扉を閉めるときには必ずふり返り、後ろに人がいないか確認していることです。後ろに人がいるときにはその人が通るまで扉を押さえて待ってくれています。

お年寄りやベビーカーを押したお母さんたちにはもちろん、私もなんども前の人が扉を押さえて通してもらったことがあります。休日の混雑したデパートなどに行くと、後ろに何人もの人が続くことがあります。そんなときにも扉を開けた人が後ろの人が途切れるまで扉を押さえて待っていました。

きっと「あとぜき」という短い言葉の中には、「扉をきちんと閉める」という意味だけでなく、後ろを歩く人への気づかいや心くばりも含まれているのだと気づき、私は「あとぜき」がとてもやさしくて温かい言葉に思えてきました。

そして、熊本に来てからの数カ月の間、道に迷う私たちにやさしく道を教えてもらったこと、電車の中で小さな妹に席を譲ってもらったこと、電車での忘れ物がちゃんと手元に戻ってきたこと……、たくさんの親切に触れてきたことが思い出されました。

今回「あとぜき」の意味を考えることで、私は改めて熊本の皆さんのやさしさを知りました。私はさらにまた熊本が好きになりました。「あとぜき」という言葉は日本中の人に知ってほしいすてきな言葉です。

私も早く、「あとぜき」をスマートにできるようになりたいです。

そして、いつもなにげなくしているあたりまえの行動が、いつのまにか「誰かへの親切」となっているようになればいいな、と思いました。

コロナ禍の子どもたちが教えてくれた“大切なこと”

令和3年(2021)度の「小さな親切」作文コンクールは、通常テーマ「小さな親切」に加えて、特別テーマ「コロナが教えてくれたこと」を設けました。 “ウィズコロナ”が日常となった子どもたちの作文には、幸せの本質や人の心の在り方など、大切なメッセージがたくさん詰まっていました。

特別テーマに寄せられた作文の傾向を一部ご紹介します。

“当たり前”が幸せ

圧倒的に多かった作文のテーマは、コロナ前の日常が「いかに幸せだったか」気づいたというもの。学校行事や修学旅行に加え、人生の節目となる入学式や卒業式、一生懸命練習に打ち込んだ部活動の大会などが中止となり、多くの小中学生が残念な想いを綴っていました。
コロナによって、一生の思い出となる機会がたくさん奪われてしまったことに胸が痛くなりますが、これまで当たり前のように過ごしていた学校や家庭での日常は、「決して当たり前ではない、とても幸せなものだったのだ」と気づいた子がたくさんいました。だから、これまで以上に、家族や身近な人に感謝しながら、一日一日を大切にしよう……と、彼らは前向きに”今“を生きています。
年を重ねた大人のように、達観した子どもたち。早くのびのびとした生活ができるよう願っています。

大人への批判の目

クラスメイトとの楽しい食事の場である給食の時間は「黙食」となり、友達と遊んだり、家族との旅行や外食もできなくなりました。学校や家で、様々な制限を強いられている子どもたちの「息抜きの場」は多くありません。
そんな中、テレビで目にするのは、緊急事態宣言中にも関わらず、路上や居酒屋で遅くまで飲み、ハメを外す大人たちの姿。自分たちは感染しない・させないように、いろいろな我慢をしているのに、なぜ大人はルールを守らないのか、と怒りをぶつけている作文もありました。
また、「コロナ差別」「自粛警察」など、他人を攻撃する人に対しても厳しい意見が。「憎むべきはウイルスであって、人ではない」と、多くの子どもたちが相手を気遣う心の余裕を持つよう訴えています。
本来、子どもたちのお手本であるべき大人。我々の言動・行動は常に子どもたちに見られていることを忘れずにいたいものです。

“人の心”を教えてくれたコロナ

家族や身近な人がコロナに感染したり、濃厚接触者になった体験を書いた作文もいくつかありました。通っていた幼稚園で感染者が出たため、濃厚接触者になった妹に、思わず「近寄らないで!」と言ってしまった小学生は、幼い妹を傷つけた罪悪感でいっぱいになりながらも、自分の心を見つめ、差別は決してしてはいけない、コロナが「人の心」を教えてくれた、と綴りました。
不安や恐怖によって生まれてしまう「差別の芽」。それを摘むことができるのは、唯一「人の心=思いやりの心」だけ。コロナに打ち勝つためには、「人の心」を失ってはならないと多くの子どもたちが気づいてくれたことは、嬉しい限りです。

過去3年間の入賞・入選者はこちら

第48回(令和5年度)入賞・入選者【PDF】
第47回(令和4年度)入賞・入選者【PDF】
第46回(令和3年度)入賞・入選者【PDF】

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