「小さな親切」作文コンクール 入賞作品
〈第42回(平成29年度)・優秀賞〉

「僕が生きる親切」

山口県 三丘小学校 6年 鶴本 航平

僕が住んでいる三丘(みつお)は、山口県周南市の田舎のまちです。まわりにはどこまでも田んぼと畑が広がり、緑であふれています。僕は、三丘に昨年の正月に引っ越してきました。引っ越す前に住んでいたのは東京の街中だったので、最初は生活の変化にとまどいました。

三丘に来て最初におどろいたのは、まわりの人たちがとても親切なことでした。僕たちが引っ越す前に、近所の人たちが集まって庭の草刈りや掃除をしてくれました。築百年の古い家は、見学に来たときはボロボロで住めるのか心配でしたが、家の中も、近所のおばあちゃんたちが障子の張りかえをしたり、大掃除をしたりして、引っ越すときはだいぶきれいになっていました。

引っ越してからは、近所の人たちがひんぱんに野菜を持ってきてくれました。お母さんは、三丘に来てから野菜もお米も買わなくて済むと大助かりで、僕もいただいた野菜がおいしいので、野菜をたくさん食べるようになりました。

けれども、お母さんは「いつも親切のもらいっぱなしでなにもお返しができないね。」と言って、心配していました。そして、どこかへ出かけるたびにお土産を買って、野菜をくれる方に持っていっていました。

ところが、お土産を持っていくと、困ったような顔をする人が多くて、持っていったお土産の何倍ものお返しがブーメランのように返ってきます。お母さんは、「どうしよう。」と言って、しばらく困っていました。

ところがしばらくすると、お母さんがお土産を配るのをやめたことに、気がつきました。僕は、もらいっぱなしでよいのかなと、気になっていました。だけど、あいかわらず近所の人たちは親切で、僕にも妹にも、みんな声をかけてくれます。お母さんは何も言わなかったけれど、一年ぐらいたったら僕にも、三丘の親切のしくみがだんだんわかってきました。

三丘では、みんな自分のところで余っているモノを無駄にしないで、喜んでくれる人にあげて「モノを生かす」のです。もらった人は、くれた人に同じ価値のモノを返すのではなくて、また、自分のところで余っているモノを、べつの一番喜んでくれる人のところに持っていったり、モノではなくて、ほかの家の子どものお世話をしたり、庭の草とりをしたり、自分ができることで困っている人を助けてあげます。

小さな親切も、大きな親切も、みんなが自分のできることをお互いにしあっているしくみで、三丘はまわっています。

この方法だと、みんなが役に立てて、みんなが喜んで、とても楽しいしくみだと思います。僕たち子どもも、おばあちゃんたちの集まりに出て楽しませてあげたりと、自分たちのできることをしています。

僕は三丘に引っ越してきて、毎日親切に囲まれている生活ができてよかったと思います。そして僕も、このすてきな三丘の親切なしくみの一員となって、自分のできる親切をしていきたいと思います。

コロナ禍の子どもたちが教えてくれた“大切なこと”

令和3年(2021)度の「小さな親切」作文コンクールは、通常テーマ「小さな親切」に加えて、特別テーマ「コロナが教えてくれたこと」を設けました。 “ウィズコロナ”が日常となった子どもたちの作文には、幸せの本質や人の心の在り方など、大切なメッセージがたくさん詰まっていました。

特別テーマに寄せられた作文の傾向を一部ご紹介します。

“当たり前”が幸せ

圧倒的に多かった作文のテーマは、コロナ前の日常が「いかに幸せだったか」気づいたというもの。学校行事や修学旅行に加え、人生の節目となる入学式や卒業式、一生懸命練習に打ち込んだ部活動の大会などが中止となり、多くの小中学生が残念な想いを綴っていました。
コロナによって、一生の思い出となる機会がたくさん奪われてしまったことに胸が痛くなりますが、これまで当たり前のように過ごしていた学校や家庭での日常は、「決して当たり前ではない、とても幸せなものだったのだ」と気づいた子がたくさんいました。だから、これまで以上に、家族や身近な人に感謝しながら、一日一日を大切にしよう……と、彼らは前向きに”今“を生きています。
年を重ねた大人のように、達観した子どもたち。早くのびのびとした生活ができるよう願っています。

大人への批判の目

クラスメイトとの楽しい食事の場である給食の時間は「黙食」となり、友達と遊んだり、家族との旅行や外食もできなくなりました。学校や家で、様々な制限を強いられている子どもたちの「息抜きの場」は多くありません。
そんな中、テレビで目にするのは、緊急事態宣言中にも関わらず、路上や居酒屋で遅くまで飲み、ハメを外す大人たちの姿。自分たちは感染しない・させないように、いろいろな我慢をしているのに、なぜ大人はルールを守らないのか、と怒りをぶつけている作文もありました。
また、「コロナ差別」「自粛警察」など、他人を攻撃する人に対しても厳しい意見が。「憎むべきはウイルスであって、人ではない」と、多くの子どもたちが相手を気遣う心の余裕を持つよう訴えています。
本来、子どもたちのお手本であるべき大人。我々の言動・行動は常に子どもたちに見られていることを忘れずにいたいものです。

“人の心”を教えてくれたコロナ

家族や身近な人がコロナに感染したり、濃厚接触者になった体験を書いた作文もいくつかありました。通っていた幼稚園で感染者が出たため、濃厚接触者になった妹に、思わず「近寄らないで!」と言ってしまった小学生は、幼い妹を傷つけた罪悪感でいっぱいになりながらも、自分の心を見つめ、差別は決してしてはいけない、コロナが「人の心」を教えてくれた、と綴りました。
不安や恐怖によって生まれてしまう「差別の芽」。それを摘むことができるのは、唯一「人の心=思いやりの心」だけ。コロナに打ち勝つためには、「人の心」を失ってはならないと多くの子どもたちが気づいてくれたことは、嬉しい限りです。

過去3年間の入賞・入選者はこちら

第48回(令和5年度)入賞・入選者【PDF】
第47回(令和4年度)入賞・入選者【PDF】
第46回(令和3年度)入賞・入選者【PDF】

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